ロートアイアン豆知識

ロートアイアン(鍛鉄)とは

公園のフェンス越しに建つ、ロートアイアン細工で彩られたビル(ロンドン)

 ヨーロッパ各地を訪れると、さりげなく、あるいは華麗に私たちを出迎えてくれる鉄細工の造形-これがロートアイアン(鍛鉄)です。近代製鉄も電気溶接も無い時代に、炉の炎と鍛冶屋の槌音から生まれたこの造形技法は、絶対王政のヨーロッパで頂点に達し、今もなお人々の心を捕らえ続けています。

観光客の喧騒が嘘のような早朝のベルサイユ宮殿正門(パリ)
ダイアナ妃ゆかりの初冬のケンジントン・パレス正門(ロンドン)

 現在では、必要な長さに切断した鉄の棒材をまずコークス炉や酸素バーナーで加熱し、赤熱した棒材はアンビル(金床)の上で鍛冶屋のハンマーに打たれ変形していきます。材料が冷えてしまうと加工が出来ないので、再び火に入れて赤熱させ、目的の形が完成するまでこの工程が繰返されます。「鉄は赤いうちに打て」の諺どおりの作業です。刃物や日本刀の鍛冶屋さんのような焼入れがどうこうといった難しいことは必要なく、ただ叩かれて出来る形を仕上げていきます。一般的には、このようにして作った複数のパーツを繋ぎ合わせて、窓格子、手摺、門扉、フェンスなどにまとめ上げる建築金物製作技法または製品を「ロートアイアン(鍛鉄)」と呼びます。レッキーメタルのロートアイアンパーツとオーダー製作品もこのあたりをターゲットとして、皆様がよりお手軽にご利用できるよう開発・供給されています。

 建築の装飾品としても長い歴史を持つロートアイアン(鍛鉄)ですから、時代背景、地域性、材料となる製鉄法の変遷などにより多くのデザインスタイルが生まれました。基本的にロートアイアン(鍛鉄)はその地方地域で製作されたものが使用されてきました。ですから、ヨーロッパの中でもロートアイアンの本場はどこ?との質問には答えに窮します。それに加え、近代にはとても彫刻的芸術性の高い造形や、パワーのあるマシンでねじ伏せるような造形のロートアイアン(鍛鉄)も出現してますます多様化しています。

日本でのロートアイアン(鍛鉄)

 日本で「鍛鉄」という単語が一般に用いられ始めたのは多分1960年代の末あたりからだと思われます。それ以前は「鍛造」という、主に工業分野での専門用語が流用されていました。しかし出来る製品の用途・性格があまりにも違うので、「装飾鍛造」「美術鍛造」などと呼ばれることもありました。その当時航空機や路線が拡充されて、誰もが世界各国を訪れるようになり、日本であまりお目にかかったことのない鉄で出来た建築装飾をまのあたりにするようになると、日本でも現状の技術を駆使してこれを作ってみたい、使ってみたいという流れが生まれました。そこで、英語圏では「Wrought Iron」、ドイツ語では「Kunstschmiede」と総称される単語に基づいて、今まで少々マイナーであった「鍛鉄」という単語がロートアイアンを意味する単語として関係者の中で使用され始めました。

 それ以前の日本でも、鍛鉄は輸入品だとか建築設計家と鍛冶屋さんが見様見真似で苦労して作ったと思われるものがいくつもあります。造形のための基本技法や道具は従来の鍛冶屋と同じでしたから、むしろこの頃のもののほうがある意味今よりも本格的な鍛鉄であったと言えます。

20世紀最初期建造の横浜赤煉瓦倉庫。一般公開に先がけた改装時、アルミ鋳物に置変った物も多いのが残念ですが、建造当時の手摺、窓格子、鉄扉などが一部そのまま残っている個所があります。
お寺や墓地にも、門扉や柵などにパーツから手作りした鍛鉄製のものを見つけることができます。

 1960年代末といえば、一般の鉄工所ではアーク溶接機は普及していましたし、ガス溶接器を利用して熱間加工したパーツを作れば、どこでも容易に鍛鉄的デザインの鉄製建築装飾が製作できました。建築設計家も関連の洋書や雑誌の写真をソースにすれば鍛鉄的デザインを取り入れるのは容易でした。しかしネックになったのはコストと納期、つまり量産に不向きであることと、施工後のサビの問題でした。
 デザイン的に同様であればという事で、「アルミの鋳物」製が台頭します。当時鋳物の技術革新も著しく、細い格子状や平らで大型の形状が鋳込めるようになっていて、量産に適しサビの心配のないアルミ鋳物は、大手エクステリアメーカーなどの製作側と大手建設会社・住宅メーカーなど利用者側の需給が一致して一気に市場に広まりました。

アルミ鋳物製の門扉とフェンスが統一デザインになっています。
鋳物製の門扉の一例。一体成型の既製品のため、サイズは変えられません。

 しかし、鋳物の技法と鍛鉄の技法は、材料は同じですが全く異なる技法です。鋳物は金属材料を一旦溶かして型に流し込む製作技法、鍛鉄は金属材料(ほとんどが鉄)を熱した状態・・・溶かしません・・・で加工する技法です。

ロートアイアン(鍛鉄)の素材

 鍛鉄の材料は厳密に言うと鉄ではなく鋼です。ある程度炭素が入っているので、純粋な鉄とは異なります。SS400という一般鋼材を常用しています。建築をはじめとして一般的に使われるJIS規格の鋼材で日本中どこでも手に入るものです。これは刃物用やバネ用などの炭素鋼とも異なります。
鍛鉄の盛んなヨーロッパでは今でも鍛鉄細工用に適した炭素含有量のとても少ないMild steelや、とても高価なPure ironも流通しています。日本でも一般鋼材より炭素量の少ない、つまり熱間加工作業性の高い「極軟鋼」がありますが、鉄板状のものがほとんどで、棒状のものを探すのはかなり困難で残念です。

 さらに「錬鉄」と呼ばれる鋼が過去に存在しました。製鉄所で精錬された炭素量の多い Pig iron (銑鉄塊)をもとに反射炉で再溶融し「パドル法」という技術で炭素分を取り除いた、これがまさに材料としてのWrought ironのことです。脆く強靭性に劣る銑鉄鋳物に変わり、建築材やレール、厚板などに利用され、19世紀を代表する素材として、パリのエッフェル塔にも使われています。しかし、転炉法という技術が発明され、より強靭な鋼鉄が大量生産できるようになると、パドル法は衰退し20世紀中ごろには途絶えました。

かつて「パドル法」という技法で鋳物地金からロートアイアン(錬鉄)地金を作っていました
パドル法確立以前の銑鉄鋳物製として世界最初の鉄橋「ジ・アイアンブリッジ」は近代コークス製鉄発祥の地に今もたたずむ世界遺産。(イギリス・テルフォード近郊)

レッキーメタル製ロートアイアン(鍛鉄)の位置づけ

 前述のように、レッキーメタルのロートアイアン(鍛鉄)パーツは、繰り返しや左右対称パターンのロートアイアン製品を製作する際に最も簡便に効果的な造形力を発揮します。
 しかし昔ながらのロートアイアン(鍛鉄)と違うのは、材料を赤熱しなくても作れる一部のパーツは冷間で専用マシンを利用して作りますし、鋳造方式が利用できるパーツは同じ材料を電炉溶融して作っています。もちろん熱間加工が必要なパーツは昔どおり炉で赤熱して加工しています。どの技法で作ったパーツでも、実用レベルでの材質はSS400とほぼ同等です。
 パーツ同士の接合は電気溶接を想定しています。アーク溶接、半自動、TIG溶接など、鉄工所や溶接加工所で普通に常備している、アーク、半自動、TIGなどの溶接機で接合、組立をします。
 少し手を加える余裕があれば、この他にまだいろいろな方法でグレードアップした、オリジナルパターンの作成も可能です。当社「デザインブック日本版Vol.2」(ホームページから閲覧、ダウンロード可)には様々な技法、ヒントが満載です。是非ご覧ください。

ハンドレールのナメ上がり加工中の製作所ユーザー。鋳物と違い、パーツは加熱すれば変形加工できます